わがまちに医師を~地域医療をどう支えるのか
休日で撮りだめしたまま見ることが出来なかったビデオを、見ることに…。昨年10月7日に放映されたETV特集「わがまちに医師を~地域医療と霞ヶ関の半世紀」。
取材中の東日本大震災からスタート。震災で医師不足の地域医療がますます医師不足に陥り更に深刻になっていく現状。厚生省と日本医師会、地域医療現場の医師たちの声が錯綜しながら今の医療体制がつくられていきます。
津波の被害を受けた岩手県陸前高田市の県立高田病院が医師不足に悩まされ続けた病院として登場しています。火災、チリ地震の津波を経験し必至の努力で病院復興。そのとき日本の国民皆保険制度ができ高田病院は地域医療の拠点となっていきます。
戦後新しい国づくりのもとで、厚生省も前向きで、当初イギリスのビバリッジ報告をモデルに医療費無料の日本の制度をつくろうとしていたんですね。行政が全国に公的病院をつくり、そこに医師を派遣する制度を考えていたそうです。皆保険をすすめるなかで無医村を無くし都会でも地方でも平等に医療が受けられるようにしようと考えていたようです。
ところがそれに立ちはだかったのが全国医師会。医療に行政が介入することを嫌い医者の職業的自由がなくなると「プロフェッショナルフリーダム」を打ち出し、厚労省と真っ向から対決します。医療金融公庫の制度をつくり医師が自由に開業できる制度をつくりますが(その過程でこれが呑めないなら医師会票は自民党に入れないといったやり取りがなされています)、地域医療、過疎地に行く医師は少なく都会と地域の格差が拡がります。
この間、医師を増やす施策(1県1医科大学病院制度)を行ったり、逆に医師を減らす施策が行われたり、インターン制度の廃止、臨床医制度の実施など等繰り返されます。
第15代医師会長の坪井栄孝氏は、福島でがん専門病院をつくり、医師会を引っ張りますが、東日本大震災・福島原発後医師が辞めていく現象が起こり、後を継いだ息子さんは皮肉にも父親とは逆に行政の責任で医師を配置することを求めるようになります。
震災後、岩手県立高田病院は高台の仮設病院で診療をしていますが、創立以来はじめて10人を超える医師が働いているとか。長年休止していた産婦人科と整形外科の診療が増えました。全国の大学や医科大学から応援医師が派遣されているからです。
何でも診なければならない地域医療に医師の存在意義をみつけ移住して常勤で働きたいという医師が現れ希望の光が見え始めたところで番組は終わりましたが、これも医師たちの意志によるもの。番組みは、医師が派遣される仕組みさえあれば解決される地域医療に問題意識を投げかけています。
今の政府のもとで社会保障制度の改悪、TPP参加による皆保険制度の崩壊が予測され医師会も揚げて反対運動が広がっています。戦後の新しい国づくりのもと、イギリスの制度を学びすべての国民が無料で医療を受けられる制度をつくろうとしていた厚生省の前向きな精神に立ち戻る必要があるのではないでしょうか。